谷崎潤一郎の愚痴
- Hiroko
- 2022年3月10日
- 読了時間: 3分
執筆者:Hiroko
『客ぎらい』は興味のない来客をかわすため猫の尻尾が欲しいという語りから始まる、谷崎潤一郎の短編随筆だ。

この短編随筆は、猫の話からいつのまにか食べ物や胃もたれの話になるのが美食家であった彼らしく、後半では食事をご馳走になることは有り難くないと谷崎節が全開だ。
なんというか、文章を読むぞ!と意気込まなくてもいいから好きで、定期的に読み返してしまう。
「猫は飼い主から名を呼ばれた時、ニャアと啼いて返事をするのが億劫であると、黙って、ちょっと尻尾の端を振ってみせるのである。」*1
私は猫が大好きだが、飼ったことはない。
愛猫家の間では、猫が尻尾で返事をする生態はよく知られたことなのだろうか。
猫は、動画じゃなく活字でも癒される。
寺田寅彦氏の随筆に猫の尻尾は無用の長物であんな邪魔なものが人間についていなくて良かったと書いてあったが、あれは非常に便利なものである、と寺田寅彦氏を引き合いに出している所がまたおもしろい。
(寺田寅彦氏は地球物理学関連の研究者だが、“金平糖の角の研究”なんかも行った人で、「形の物理学」分野での先駆的な研究を行っていた。一部では寺田物理学と言われているほどの人物)
じつはこれが理想の生き方
『客ぎらい』というタイトルなだけに、終始他人に対する恨みをたれているのだが、自分はもうこの先短いからそんなに人と合わなくてもいいだろうと書かれているところに理想の生き方を見つけた。
「大体生きている間にしておこうと思う仕事は、ほぼ予定が出来ているのである。その仕事の量を考えると、なかなか生きている間には片付きそうもないくらいあるので、私としては自分の余生を傾けて、それをぽつぽつ予定表に従って片端から成し遂げていくことが精一杯で、もうこれ以上人を知ったり世間を覗いたりする必要はほとんどない。他人に対して願うところはただ少しでも予定の実行を狂わせたり、邪魔したりしてくれないように、ということに尽きる。」*2
今世に残されたトキをどう過ごしたいかは決めていて、しかもそれには時間が足りなそうだ、ときた。
どれほど充実した人生だろう。
「客ぎらい」を書いたとき、谷崎は63歳。
「いつか私はほんとうに話し下手になり、昔のようにしゃべってやろうと思ってもしゃべれなくなってしまい、そうすると又しゃべることに興味も持たなくなってしまった。かくて六十三歳の今日では、交際嫌いと無口の癖がいよいよひどくなって来て、自分でも折々持て余すくらいになったのである。」*3
ひきこもりの人がいうようなことを言っている。最近コンビニの店員さんとすら話してないから、話すの下手になった気がするんだよね、というような。
「昔は交際嫌いといっても美人だけは例外で、美しい人に紹介されたり訪ねて来られたりすることは、この限りではなかったのであるが、今はそれさえもあまり有難いとは思わない。
(中略)
私は私でひそかに佳人の標準を極めているのであるが、それに当て嵌まる人というものに寔に暁天の星のごとくであるから、そんなもの無闇に出現しようとは思ってもいない。」*4
つまり、昔は美人といえばホイホイついっていったが、年齢を重ねるにつれ女性の好みも偏ってきたのを自覚しているから紹介無用、と。
63歳の谷崎はどのような女性が好みだったのだろう。
谷崎潤一郎の世間への愚痴を集めたようなこの随筆。
週末の夜、ゆるりと一杯呑みながら酒のつまみにしてほしい。
引用元:
*1*2*3*4 弘文堂新社『客ぎらい』谷崎潤一郎
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