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「うすぐらいかげ」の神秘

執筆者の写真: HirokoHiroko

「文明の利器を取り入れるのに勿論異議はないけれども、それならそれで、なぜもう少しわれわれの習慣や趣味生活を重んじ、それに順応するように改良を加えられないのであろうか・・・」*1


日々インターネットの荒波に呑まれ、公私ともに検索エンジンやSNSのマリオネットになっている私からすると、谷崎潤一郎のこの言葉は本来の自分を取り戻すために必要なようで強く惹かれる。




インターネット時代のバイブル


文豪の谷崎潤一郎は、小説の他に随筆や評論、戯曲、翻訳と膨大な量の著作を残したが、その中でもとくに高く評価されている随筆が『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』だ。


簡単に説明すると、日本の美とは薄暗い中にあり、なぜ薄暗いと美しいのかを様々な角度から説明している本だ。

デザイナーやアーティスト、美大生の間では、日本の美を知りたいならまずはこの本を読めと言われるバイブル的なもの。

谷崎の独特の文体で語られる日本の美は、時代も国境も超えて読まれている。


高校を卒業してファッション系の専門学校に通っていた私も例外ではなく、若さゆえ華やかなものにばかり目が行きがちだったが、陰翳礼讃ではじめて暗がりとは美しいものなんだと魅了された。



自分の肌に馴染むもの


学生時代はテレビや雑誌の広告に流され、今は大量に流れてくるネット広告に翻弄され...自分の思想なんてあったもんじゃないなとうっすら気が付いてはいたものの、次の瞬間にはまたどこかに飛ばされている。

自分がそういう状態にいることすら気がついていない人も多いだろう。


とにかくたくさんのコトを吸収したい!と息巻いていた若かりしころとは違い、ゆっくり歩いたり休んだりした方がいいモノを生み出せることがわかってくると、途端に広告が息苦しくなる瞬間がある。


取り囲む物を減らし、今の自分の肌に馴染むモノを残していくと、日本の美にぶつかることが多くなってきた。

日本人として生まれたのだから当然といえば当然なのかもしれないが、惹かれる美の背景やストーリーが気になってくる。


着物やお茶や日本人形の本を探しては、日本の歴史を少しづつ自分の中に溜めていく。そうすると広告に翻弄されている時には感じなかった、地に足がついた感覚がうまれる。


炊きたてのお米って美味しいよねと日本人にとっては当たり前のことも、谷崎の手にかかればこう表現される。


「あの、炊き立ての真っ白な飯が、ぱっと蓋を取った下から暖かそうな湯気を吐きながら黒い器に盛り上がって、一と粒一と粒真珠のようにかがやいているのを見る時、日本人なら誰しも米の有り難さを感じるであろう。かく考えて来ると、われわれの料理が常に陰翳を基調とし、闇と云うものと切っても切れない関係にあることを知るのである。」*2


炊き立てのご飯にこうも感動できる感性を忘れないためにも、毎日大量に目にする広告でもマスメディアが推しているものに流されず、今の自分の肌に馴染むものを選んで行きたい。





引用元:

*1*2 新潮文庫『陰翳礼讃』谷崎潤一郎


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