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卵の中の宇宙

  • 執筆者の写真: Naoko
    Naoko
  • 2022年7月14日
  • 読了時間: 3分

執筆者:Naoko


押井守が原案・監督・脚本を手掛け、天野喜孝がキャラクターデザインをした『天使のたまご』というアニメーションをご存知だろうか?


塔に住む少女は大きな卵を守り、天使が孵ることを夢見ている。

少女の住まう町に大きな武器をもった少年が訪れる。

卵の中身を少女に問うが、中身は本当に天使なのか、気になって仕方がない。少年はある日こらえきれずに卵を割ってしまう。

登場人物は、少女と少年のおおよそ2人しか出てこない。



ビルの間に表れる魚影だけの魚。

何か大きな生き物だったものの、肋骨。

透明なガラスの瓶を廃墟の街の塔に集め、卵を自分のお腹で温める少女。

少女の哀しみよりも、好奇心が打ち勝つ少年。


物語終盤でノアの方舟を思わせるシーンもあり、天野喜孝の美麗な人物のデザインと、深く暗い廃墟や街の描写が悪夢のような物語だ。

アニメーションのDVDも何度も鑑賞しているが、書籍化もされていて、私の宝物といってもいい物語の一つであることは間違いない。


卵の中身は、結局のところはっきりとはわからず、鑑賞者の想像に委ねられている。



シンボルとしての卵


哺乳綱 霊長目 ヒト科 ヒト属 ヒト種である我々は、卵を産まないからこそ、卵の形や殻に覆われて中身を見ることができないその神秘性に惹かれるのかもしれない。


「生命の根源を秘めた生命の種のにように見える卵は、事実、生命の種のようなものであり、それゆえに、動物界のみならず、宇宙全体の再生の象徴とされる。」*1


多くの文明で、「世界は卵形をしていると信じ」*2 られており、宇宙の原初の状態を表わしていることから、宇宙卵と呼ばれたりもしている。


宇宙卵、すなわち1つの卵から宇宙が生まれるという思想は、インドの『ヴェーダ』やギリシャ、エジプトなど世界各国で見られる。


ジェイナ・ガライの『シンボル・イメージ小事典』の「たまご」の項目によると、「錬金術では、血液、水、精液など、あらゆる液体に生命が宿っていると信じられていた。そのため、まさに液体である卵黄や卵白は、具体的にも、また抽象的にも、生命とその不滅性を表わしていたのである」*3 とあり、乱暴であるが、不滅性、普遍性などのキーワードから卵と宇宙が繋がっているといえるかもしれない。



卵を割るという行為の考察


『天使のたまご』の印象的なシーンとしては、物語の後半に少年が十字架に似た大きな武器で、少女が大切に守っている卵を割ってしまうシーンだ。

少女と少年は、出逢ったその時から、その後の関係性を匂わせるような艶めかしい空気が流れている。

初めて出会った異性、または同性に心惹かれる時、瞬間的に近い将来、相手と寝るだろうと確信するような感覚に近いかもしれない。


卵を割られた後に、割られたことに悲しみ、叫ぶ少女の声が鬱陶しい程に響き渡る。

卵を割る行為は、ほぼ少年と少女の情交のシーンといってもいい。少女の叫びは破瓜の叫びのようで見ていられない。


少年の性への好奇心

少女の性への恐れと痛み


タルコフスキーの映像作品のように寓話的で、見るものに解釈を求めるこの作品ではあるが、私は子供の頃に初めてアニメーションを見て、書籍を手に取って、何度とな繰り返し咀嚼したように思う。

子供の頃に見た・読んだ印象と、大人になった時のそれが異なる作品は多いと思うが、この作品に関しては、不思議とあまり変わらない作品の1つである。

私自身の解釈にぶれがないのか、成長がないのか、どちらかが原因なのかもしれないが、この作品には、主人公たちに感情移入することがなく、1つの情景として眺めるような物語だからかもしれない。


少女の守った卵の中からは、なにが生まれてくるのか?

天使だろうか。

少年と少女の子供だろうか。

それとも、宇宙そのものなのだろうか。

是非、物語の手触りを愉しんでみてほしい。





引用元:*1,2,3 現代教養文庫『シンボル・イメージ小事典』ジェイナ・ガライ

参照元:徳間書店 『天使のたまご』 押井守

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