人魚は禍を呼ぶのか、それとも・・・
- Naoko
- 2022年6月30日
- 読了時間: 4分
執筆者:Naoko
岡山にある円珠院という寺で、人魚のミイラが収蔵されているのはご存知だろうか?
上半身が人型で下半身が魚の尾を持ち、人としてはやや小ぶりなミイラである。
倉敷芸術科学大学で今年、X線やCTを使用したミイラの解析が始まったことや、来月7月から同じく倉敷市立自然史博物館で「第31回特別展 倉敷動物妖怪展 at 自然史博物館(仮称)」と題した展示が始まるようで、時折目にする人魚のミイラがまたメディアに取り上げられているようだ。

私はこの人魚のミイラは直接見たことがないものの映像や写真などで見て、いわゆるアンデルセンの童話で出てくる美しく物悲しい人魚のイメージが崩されるような、そんな感覚を覚えた。
こんなかカピカピの干上がった人魚があってたまるか、と怒りさえ湧いてくる。
人魚特有の瑞々しい美しさが欠けていてどこか滑稽ささえ感じられるような人魚なのである。
これは、私たちが、”人魚”という架空の生き物を想像し、その際に作り上げてしまった偶像とのギャップなのかもしれない。
日本の伝承や文学、漫画などの創作において、人魚の肉を食べて不老長寿になった八百比丘尼の話や、高橋留美子の漫画『人魚の森』のようにどことなく、おどろおどろしい印象だ。
また西洋でも、セイレーン、メリュジーヌ、ローレライ、メロウなど国が変われば呼び名も変わるが、人魚と同一視される架空の生き物の伝承があり、これらは、船に乗る者を誘惑し死を齎したり、海や天候を荒らしたりと、禍を呼ぶ存在として扱われている。
人魚の視点と人魚と出会ったものの視点
そんな禍々しき存在である人魚であるが、人魚を見た、惑わされた、喰って不老不死となったという話が多いが、一方で人魚の視点で描かれている作品も存在している。
人魚側の視点で描かれた作品というと、アンデルセンの『人魚姫』や小川未明の『赤いろうそくと人魚』など、幻想的で物悲しく、ハッピーエンドとは言えないが、物語に登場する人魚たちは若く美しい娘の姿をした人魚である。
人魚の立場で描かれたものは美しく、反対に人魚と出会って何らかのアクシデントに巻き込まれたものの視点では、不吉で醜悪さも帯びた異形の者として描かれている。
この両者のギャップは何なのだろうか?
両者の視点を織り交ぜ、以下に整理してみた。
1.人魚は何らかの事情で、自身の身の上を憂いている
2.人魚は海や水辺の生き物なため、彼女たちのメンタルの良し悪しが
天候に表れ易いが、常に憂いを湛えているので、大概悪天候
3.人魚と出会う=悪天候になり、海難・水難事故に遭う
4.海難・水難事故を起こす人魚は魔物=人魚は醜悪
整理した事柄から考えると、人魚はそもそも何らかの憂いを秘めていて、最終的にめぐりめぐって禍を呼び寄せてしまっている可哀そうな生き物なのかもしれない。
憂いの原因
そもそも、人魚は何故、何について憂えているのか?
ここは人魚側の視点を持つ作品で、紐解いていきたい。
小川未明の『赤いろうそくと人魚』に登場する人魚の娘は、蝋燭を商っている店の店主の老夫婦に可愛がられて育てられていたのに、金を持った商人が現れて、人魚は災いを生むから売れと迫ったら、案外あっさりと人魚を売ることを決断し、信頼していた人々に裏切られてしまう。
また、人魚の娘を生んだ母親の人魚は、冒頭で、自分たちは人間とほとんど変わらないのに、冷たい暗い海の中で何故過ごさなければならないのかと人魚という生き方の不毛さを嘆いている。
アンデルセンの『人魚姫』では、難破した船に乗った王子を助けたのは自分なのに誤った認識をされた上、声を代償にしてまで人間になったのに、愛しい王子と結婚もできず、絶望して自死を選ぶ。
谷崎潤一郎の『人魚の嘆き』では、人魚を買い取った貴公子に、商人は「人魚は、人間には計り知れない力を持ちながら、卑しい魚類に堕されました。そして、海の底を泳ぎながら、陸に憧れて嘆いているのです」*1 と評価している。
人魚と貴公子は、お互い惹かれ合うものの、人魚に恋をすると、命を全う出来なくなってしまうと聞かされる。
これらの物語の共通点は、”人魚は人間に近いのに報われない”ということ。
そして”一緒にいると不幸せになる構図”があるということだ。
”一緒にいると不幸せになる構図”は、ライフスタイルの違いや、命の長い短いもあるかもしれないが、もしかすると一番の原因は、”人魚は人間に近いのに報われない”ことを嘆いているメンタルが、周囲の人を負の方向へ巻き込んでしまうことが大きいのではないだろうか?
人魚に限らず、人間だって精神的に落ちている時に、周りの人も落ち込ませたり、考え込ませてしまったりと少なからず影響を与えてしまうこともあると思う。
それがただ、天候不順に影響を及ぼしてしまうだけなのだ・・・。
人間の親父だって”雷”を落とすこともあるのだから。
引用元:中公文庫 『人魚の嘆き 魔術師』 谷崎 潤一郎
参照元:新潮文庫『小川未明童話集』 小川 未明
福音館文庫『人魚姫―アンデルセンの童話〈2〉』ハンス・クリスチャン・アンデルセン
少年サンデーコミックススペシャル『人魚の森』高橋 留美子
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