君に帰ろう
- Hiroko
- 2022年5月12日
- 読了時間: 2分
更新日:2022年5月28日
執筆者:Hiroko
辛いときに聴きたい音楽や、嬉しいことがあった時に開きたい本というのはよくあるが、
辛いときも嬉しいときも、心を満たしてくれるモノは案外少ない。
私にはそんな本が一冊だけある。
本というか、写真集。
いや、これはカメラマンの夫が奥さんに宛てたラブレターだ。
『もう、家に帰ろう』

たぶんこの先もずっとこんな経験はしないだろう。
この写真集は、前を通った時に光って見えた。
本好きの間では、自分の人生のターニングポイントとなる本と出会ったとき、
「光って見えた」と表現をすることがある。
そんなことあるかい、っと思っていたのだが…ほんとうに光って見えたのだ。
手に入れたのは確か2005年だから、16年前。
銀座の本屋だったか渋谷だったかもう忘れてしまったが、この本の放つ空気感が妙に気になった。
ペラペラと2-3ページをめくると、すぐに虜になった。
知人の家のアルバムを見ているような
この写真集は、カメラマンで夫の藤代冥砂が、奥さんでモデルの田辺あゆみとの日常を撮ったもの。
あたたかな写真にひとこと言葉が添えられている。
藤代冥砂は、1999年に発表された『ライド・ライド・ライド』という写真集を見たことがあった。
『ライド・ライド・ライド』は、世界中の女性達と恋愛して、刺激的な写真を撮る旅にでた時のものだ。
「旅に出よう。できるだけ多くの女を知ろう!「自分さがし」の旅なんかクソくらえ!」
と語っていた藤代冥砂は、その数年後に見事最愛の女性を見つけたようだ。
儚さとはなんだろう
奥さんはモデルさんなんだし、素敵な写真集で当たり前でしょ?なんて思わないでいただきたい。
ここには、夫にしか見せない自然体な田辺あゆみがいる。
すっぴんにジャージで、美味しいものを頬張る、モデルとしてランウェイを歩く時は決して見せない表情。
夫から妻への愛が、妻から夫への愛が流れている。
この写真集には儚さがある。
いつか消えて無くなってしまいそうな儚さが。
この写真集を眺めていると、ひとの愛もいのちも永遠ではないと感じる。だから隣にいる人を大切にしようと思う。
冒頭では、田辺あゆみのプロライドに添えられた言葉
「1999年8月29日
初めて彼女の写真を撮った
雑誌スプリングの撮影
富士山五合目
彼女のプロライド690を借りた
まだ二人とも未来に何がおこるのか知らなかった」*1
最後の写真に添えられた言葉
「猫のように家へと帰るのではなく、君へと帰ろう」*2
一生寄り添えて、どんなときも心を満たしてくれる本だ。
引用元:
*1*2 ロッキングオン「もう、家に帰ろう」藤代冥砂
参考:
スイッチパブリッシング「ライド・ライド・ライド」藤代冥砂
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